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9R デビュー戦私の言葉に沙希さんは嬉しそうに微笑んだ。「うんうん。若手はそのくらいの気持ちが無いといけないね。一つ言っておくと、ピンフォール負けだけは絶対しないでね。まだ投げ技とかの免疫は無いだろうし、愛ちゃんのような大きな選手が投げられたら、しっかり受身をとっても自分の体重でかなりダメージがあると思うの。でもスリーカウントだけは取られないで。どんなに苦しくても我慢して肩を上げるのよ」 「じゃあ、その、関節技をまともに極められたら、どうしましょうか」 沙希さんは悪戯っぽく笑った。 「負傷欠場してもいいのなら、レフェリーストップになるまでギヴアップしなくてもいいよ」 ……そこまで中谷さんの関節技は強烈なんだ……。ロープのそばならともかく、リング中央で極められたら下手に我慢すると折れてしまうな……。 私が青ざめているその時、沙希さんが大欠伸をした。そういえば、沙希さんの顔、化粧の乗りも悪く、目の下にクマまで出来ている。 「あの、眠そうですけど大丈夫ですか? 沙希さんも次のシリーズの公式戦の準備などあって大変なのに私のことまで構わなくても……」 「あ〜、気にしないでいいよ。愛ちゃんは私がスカウトしたんだから、私が責任を持ってデビューさせないとね。中谷ちゃんに続いて愛ちゃんの付き人になってあげるよ」 沙希さんの心遣いは涙が出るほど嬉しかった。これは絶対デビューでは下手な試合は出来ないと気も引き締まった。でも、その相手が中谷さんというのが少し気にかかっていた。いい試合をするためには相手との信頼関係が必要となる。ただやっつける事だけを考えてたらただのケンカだ。今の私は中谷さんと信頼関係結ばれた試合が出来る自信は無い。 |
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