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9R デビュー戦

 最近、私の周りが慌しい。デビューが控えているため、いろいろ準備が必要だからだ。しかも私のデビューの準備を他の先輩を差し置いて率先してやってくれている沙希さんも、次期シリーズ『レッスル・クイーン・フェスティバル』に出場が決まっていて、V2が懸かっていて大変らしい。以前、ニューホープカップがあったが、これは前座の若手レスラーの大会で、今回のフェスティバルは、トップレスラー達の大会だ。沙希さんは昨年優勝して、その実績を買われてベルトに挑戦する事が出来て、今の地位を築いている。今年はチャンピオンとして大会に出場するのだ。不思議な事に、この大会ではその時点のチャンピオンは優勝できないというジンクスがある。チャンピオンだからこそ優勝して当然だというプレッシャーもあるだろうし、他のレスラーもチャンピオンを食う事が出来たら次期挑戦者になれるだろうという目論見もあることで集中的に狙われる、ということもあるので、ある意味当然といえば当然かも。社長がトップでバリバリやっていたときなどは、この大会に集中するためにベルトを返上していたらしいけど、今では、それはそのジンクスのため、あえて無冠になっておくためだったと噂までされている。

「さてと、愛ちゃん、デビュー戦は中谷ちゃんが相手だけど、勝てると思う?」
 その日も沙希さんに呼ばれた私は、いきなりの質問に
「勝てるわけないですよ」
 と答えた。
「なるほどね」
「ただ……」
「ただ、なに?」
「試合をするからには、勝ちを狙っていきたいと思います」
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