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9R デビュー戦

っただろう。中谷さんがいたから橋田先輩をロープに逃げさせたのだ。実質的には完敗だった。
「でも、まあ、強くなったよ。それは認める」
 そう言いながら橋田先輩は手を差し出した。その手を握り返し
「いや、まだまだです。自分の実力を思い知らされました」
 と私は答えた。

 道場の練習が終ったところで中谷さんの口から思いもよらない言葉が出てきた。
「あ・あの、中谷さん、今なんて言いました?」
「だから、後で沙希さんから正式に言われるだろうけど、次期シリーズ開幕戦で愛ちゃんのデビューが決まったの」
 これだけでも驚きなのに、さらに驚く事を言われる。
「ま、そういうわけだから、お手柔らかにね」
 お手柔らかにってことはまさか……。
「あの……、もしかしてデビューの相手って言うのは」
 恐る恐る聞くと、中谷さんはにっこりと頷いた。
「そ。私」
 ニューホープカップが終ってからの中谷さんの株は急上昇。いまや前座のトップ、かつての紺野さんや水野さんの立場にいる。口では『そんなの当たり前でしょ』とうそぶいてはいるけど、自分より格下という風にファンに見られている先輩たちへの心遣いも忘れてはいない。今の中谷さんの地位は先輩のお陰である部分もあるからだ。雑誌のインタビューでとある先輩レスラーは自分より後輩である中谷さ
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