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9R デビュー戦

ろを逆にその手を捕まえ、腕ごと橋田先輩の首を両足で締め上げた。もともとは柔道技でプロレスでも使われている三角締めだ。橋田先輩は私の足と自らの腕で頚動脈を締め上げる形になった。慌てて私の足を叩いてギヴアップしたので私は足を外す。レスリングは松田さんと南さん、関節技や締め技のテクニックは中谷さんの手ほどきを受けていたので、今ではこの位の事は取り敢えずはこなせる。もっとも、橋田さんは
「もうすぐシリーズ開幕なのに無茶しないでよ〜」
 と笑いながら言っていたので本気ではない事は確かだったけど。私の今の実力がレスラーにどこまで通用するのか知りたくなった私は、無理を承知で
「橋田さん、ちょっと本気出してくれませんか?」
 と頼んでみた。橋田先輩はニヤッと笑うと
「ま、ケガしたら大変だけど、三分間だけならね」
 と予想外の返事。
「田中〜、悪いけど時間とってくれる?」
 橋田先輩が床に座って一息ついている田中先輩に言った。
「いいよ。ちょっと待って」
 田中先輩は立ち上がり、壁に掛けられているストップウォッチを取る。ついでに首に掛けていたタオルをクルクルっと棒状に丸めて
「せっかくだから気分を盛り上げよっか」
 とリングに上がってきた。私と橋田先輩を両コーナーに下がるように言うと、タオルをマイクに見立てて
「これよりスパーリング三分一本勝負を行います!」
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