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8R 道場パート2

 水野さんは私と中谷さんに気がつくと、軽くウィンクして
「二人とも、ちょっと来て」
 と手招きした。
「水野さん、腕大丈夫なんですか?」
 中谷さんが心配そうに言う。ビデオで確認すると決勝で見せた正拳突きも痛めた方の腕でやっていたので、この一撃でもさらにダメージがあったはず。
「大丈夫じゃないよぉ。本当に中谷の関節技はこれから先も要注意、だね。でも気にしないでよ。あくまで試合中のアクシデントなんだから、誰も悪くないんだし。もっとも、中谷がわざと怪我させようとしていたのなら話は別だけどね」
「あ、バレましたぁ? もう折るつもりで腕を締め上げましたから」
 ……相手は洒落の通じる沙希さんじゃないんですよ、中谷さんっ。
「……ま、いいけどね。中谷はこのペースで行ったら来年のニューホープでは優勝できるかもしれないよ。もっとも、それを阻むであろう選手もいるけど。例えば……」
 水野さんは言いながら、雑談を再開している先輩たちを指差した。
「中山もそのひとりだね」
「え? でも、リーグの得点では最下位じゃないですか?」
 私の疑問に水野さんは苦笑した。
「よっぽど運が悪いのよ。本当なら私や紺野相手にも互角に戦えるだけのものを持ってるから。それが、10回戦えば9回勝てる相手に、たまたま残りの1回が来てしまったんだ。それもリーグのほとんどの試合でね。実際戦った中谷はどう思った?」
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