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8R 道場パート2

「いいな〜、むこう、お肉安いんでしょ」
 ポテトチップスを頬張りながら言うのは得点1点の中山美子さん。この人は練習中以外は常に口を動かしているような気がする。でも、全く太ってなくてすごくスタイルがいい。私を含めて羨ましく思う女性はたくさんいるだろうな。
「それにしても、決勝戦たったの8秒! すごい秒殺ね〜」
 得点6点の池田幸恵さんだ。極めて短時間で済む試合の事を秒殺と言う。試合の記録では「○分○秒、決まり手、勝者名」と記されているけど、この“分”がないもの、つまり60秒以内に決まった試合の事を一般的に秒殺と呼んでいる。それでもこの8秒というのは、NJWP最短記録らしい。
「秒殺って言えば聞こえはいいけどありゃ無いよ!」
 得点4点、田中奈美江さん。
「そーそー、ありゃハッキリ言ってセコイ!」
 得点7点、吉田雅美さん。確かにこの試合は、突っ込んできた紺野さんに対してカウンターで正拳突きをして、強引に押さえ込んだものなので、握り拳での打撃が反則となっているプロレスの試合ではかなり邪道と言ってもいいのかもしれない。でも、ファイブカウント以内なら反則も合法と言うのもプロレスだ。実際水野さんのスタミナや蓄積したダメージから考えると、これ以外に勝つ方法は無かったのも事実だ。
 そこに
「だぁ〜れがセコイってぇ〜?」
 という声。アメリカに行っているはずの水野さんだ。予想以上に腕のダメージが深刻なため、出発を遅らせていたのだ。雑談していた先輩たちは一瞬にして黙り込む。
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