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8R 道場パート2

 中谷さんは、スポーツ紙などで各プロレス団体をチェックするので、あまり雑誌は買わないらしい。自分が大きく取り上げられるようになるまで買わないとか言っていた。でも、まさか前座が取り上げられるとは思ってなかったみたいで、素で驚いていた。
「ほら、これッスよ」
 タッちゃんは鞄から雑誌を取り出してみせた。
「うわちゃ〜! どうせならもっといい写真使ってよぉ!」
 あの中谷さんが耳まで真っ赤になっていた。表紙の写真は負けて呆然としている図だ。すみっこにセコンドの私も映っている。
「で・でも水野さんもすごいんだよ。あとで病院で見たら、腕の靭帯が断裂とまではいかなくても伸びきった状態だったらしいけど、それでも優勝したんだから。その水野さんに怪我させちゃったのは私だけど……」
 中谷さんは照れ隠しのためか、話題を水野さんの件に持っていった。
「そうッスね。日程見たら、優勝は紺野選手、最終戦にも公式戦が組まれている水野選手は準優勝って図式が出来上がってたのを、怪我した体で自分に持っていったんですから」
 これは中谷さんには秘密だけど、沙希さんはタッちゃんの読み通り、最終戦に公式戦が組まれていない紺野さんを優勝させて、その日既に試合が組まれている水野さんを準優勝にするよう日程を組んでいたらしい。中谷さんには初戦に紺野さんと当てて出鼻をくじいた上で、他の日程は公式戦が無い日でもタッグマッチのようなある意味楽が出来る試合は組まずに全てシングルで組んで疲労を蓄積させ、最終戦で水野さんにとどめを刺してもらう、というシナリオだったそうだ。でも、中谷さんは、そんな過酷な日程を乗り越えただけでなく、リーグ戦の得点では水野さんと並んで同率二位なんだから、素直にすご
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