もどる

7R 新人戦

のは勝負の鉄則ではあるけど、プロとしてはデビューしたばかりといえる中谷さんにそこまで求めるのは酷だったかもしれない。
「中谷ッ! なにやってんだ! 腕を狙わないと私には勝てないよッ!」
 水野さんが叫ぶ。水野さんも必死なんだ。そして――。

 中谷さんが一本背負いを狙った。腕にダメージがある水野さんにはそれだけでも激痛が走るはず。しかし、水野さんは痛みに耐えながら必死に踏みとどまり、怪我していない方の手を使って体勢を入れ替え、中谷さんの両肩をマットに付けた。自分が今どんな体勢になっているのかわからなくて慌てた顔をしている中谷さんの耳元で、レフェリーの手が三回マットを叩いた……。
 中谷園子生涯初のピンフォール負け。私は呆然とリング上を眺めていた。中谷さんはどうなったのかわからない、という表情でレフェリーに、本当にスリーカウント入ったのか確認している。

 私と中谷さん、そして沙希さんは無言で控室に戻った。私はなんと声をかけていいのかわからない。
「あはは……。負けちゃったね……。ったく惜しいことしたなぁ。これで勝ってれば次の紺野さんに負けたとしても準優勝で海外武者修行に行けた……ハズ……なのに……」
 中谷さんの目から大粒の涙が零れ落ちる。中谷さんが泣くところを初めて見た私も涙があふれてきて止まらなかった。
「……ったく、馬鹿だったのよね……。あれだけ一本背負いばかりしてたら……。パターン読まれても仕方が無いよ……」
 涙を流しながらも必死に笑顔を作ろうとしていた中谷さんだったけど、もう限界だった。みるみる顔が
前ページ
次ページ