もどる

7R 新人戦

「水野、あんた、受けに回るって言ってなかった?」
 紺野さんが水野さんに声をかけた。水野さんは
「タックルはびびったけど、それ以上何もしてこないもん」
 と苦笑いしながら答えた。
「よし、じゃあ今度は私とスパーやろ」
 言いながら紺野さんがリングに上がる。
 一分もしないうちに私は悲鳴を上げながらマットを叩いていた。

 その後、私は他の先輩たちにたらい回しにされて悲鳴を上げ続けた。ついでに何故か中谷さんもどさくさに紛れてさり気なく私に技をかけていった。

「どうだった? プロの洗礼は」
 練習が終わった後、私は沙希さんに呼び出されて事務所にいた。沙希さんはクスクス笑っている。後で知った事だけど、ある程度プロとしての体が出来た練習生は先輩の玩具にされるという伝統がここにはあるらしい。
「本当の試合になったら、こんなものじゃないんですよね……」
「本当の試合どころか、スパーリングとしても、今日のはまだまだ甘いよ。自信無くした?」
「……少し……」
 沙希さんは笑みをたたえたまま、何も言わずに封筒を取り出して私に差し出してきた。
「……? これは?」
前ページ
次ページ