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6R 前座戦線

抱きついていた。幸い、沙希さんや他の先輩には怒られずに済んだ。

 次の日以降の中谷さんは、完全に絶好調。連戦連勝とまではいかないものの、プロレスへ柔道技を上手く応用したファイトスタイルをものにして先輩たちをきりきり舞いさせていたのが私にも解った。負ける試合は全てレフェリーストップなのが気にはなったけど。
 その日も中谷さんはスリーパーホールドで失神負けした。
「柔道技を使ってなかった時は相手に関節を極められる隙も与えてたけど、今では中谷ちゃんから関節を狙うのは前座レベルでは難しいね。中谷ちゃんの関節技は既に前座を超えてるから。だからそうそうギヴアップする事は無い。それに受身については前座だけでなくNJWP全体を見てもトップクラスと言っていいほど上手いから、大技無しの前座ではピンフォールされるほどのダメージを与える事も難しい。あとは、失神しやすいって事か……。こればっかりは口で言っても仕方ないね、体質だから」
 沙希さんが試合を見ながら呟いていた。

「中谷さん、締められたらすぐ気を失ってしまうのは……」
 私が中谷さんに聞くと
「仕方ないよ。柔道時代の締め技の練習のし過ぎで落ちグセがついちゃったから」
 と、あっけらかんと中谷さんは答えた。沙希さんも「落ちグセ」という言葉を使っていたけど、失神が体に癖になってしまう事ってあるんだ。
「でも、その癖さえ直せば前座では最強になれるんじゃないですか? それほどの勢いが中谷さんには
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