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6R 前座戦線

「中谷ちゃん、あんた、自分の柔道技には自信ある?」
 控え室に戻ったところで沙希さんが切り出した。
「何言ってんですか。私を誰だと思ってるんですか? インターハイ三連覇したんですよ。自信あるに決まってるじゃないですか。その気になったらオリンピックで金だって狙えますよ」
 中谷さんがケロッと答えた。沙希さんが機嫌悪いこと解ってないのかな。いや、解っててわざと言ってるのかも。
「甘いよ。あんたがプロレス入りしてなくて柔道に専念していたとしても、世界の壁はブ厚いよ」
「え〜? でも、今日の試合でやった一本背負いはパーフェクトでしたよ。確実に一本入ってましたもん」
「柔道の素人相手に投げても自慢になんかならないよ。それに今日の一本背負い、どう見ても有効、良くて技ありよ。柔道の試合でもあれじゃあ決まらない」
「一本じゃなくて有効、ですかぁ?」
「そう! 有効!」
 柔道の評論家はもちろん、素人が見ても文句なしの一本だった中谷さんの技を、沙希さんが有効だと言い切ったのは、ある考えが含まれていたらしいけど、私はもちろん、中谷さんも全く気付かなかった。

 次の日の中谷さんの相手は、前座ではトップクラスの紺野さんや水野さんから外れて、第一試合か第二試合あたりで戦っている吉田雅美先輩だった。
「なんか、昨日までの中谷さんの試合に比べると、かなり試合の質が落ちてますね」
 リングサイドで試合を見ながら、私は同じくセコンドについてる沙希さんに話し掛けた。
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