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6R 前座戦線

「如月晶の事だけど、確かに一筋縄ではいかない性格だから扱い辛いと思うんだけど、愛ちゃんにとっては後輩なんだから……。頼むわね」
 頼むと言われても……。
「ちょっと自信ありません……」
 沙希さんは手を上げてからちょっと躊躇して、私に椅子に座るように言った。私が座ると私の頭を軽くポンポンと叩いて(私が立っていたら手が届かなかったらしい)
「誰もが通る道だから。いざとなったらいつでも私に相談しなさい」
 と笑いながら言った。

「さ、青コーナー側の控え室に行こうか」
 沙希さんの不意の言葉に私は目を丸くした。
「沙希さんの控え室はここじゃないんですか?」
「ここだよ。でも、私の試合はメインだから時間もたっぷりあるからね。中谷ちゃんのセコンドについてあげようと思ってね。中谷ちゃんの試合に関してだけは私も付き人になるよ」
 弟子の付き人に師匠がなる……。とても信じられない話だ。
「私も社長についてたとき、私の試合にはいつもセコンドについてくれてたからね。そういう意味ではやっぱり社長には感謝しているよ」

 沙希さんの期待もむなしく、中谷さんは4分12秒逆エビ固め(両足を抱え込んでエビ反りにする事で、
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