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6R 前座戦線

「うぉ〜し! なんか出来そうな気がしてきた! がんばろっと!」
 中谷さんは元気いっぱいに試合の準備をするために控え室を出て行った(この控え室は赤コーナー側。中谷さんは青コーナーから入場するから反対側の控え室に行った)。
「ご機嫌取りも疲れるわねぇ。どっちが付き人か解んないよ」
 中谷さんがいなくなると、沙希さんが呟いた。
「沙希さん、道場のスパーリングとか見ても、中谷さんじゃ水野さんにはやっぱり厳しいんじゃないでしょうか……?」
 私の問いに沙希さんは
「道場そのままの試合をしたら確かに今の中谷ちゃんじゃ水野ちゃんには百%勝てないよ。でも、なんていうのかな、中谷ちゃんは大観衆を前にして緊張するどころか乗ってくるタイプのレスラーみたいなのよね。元々目立ちたがり屋だから。そこに中谷ちゃん本来持っている柔道で培ったテクニックを駆使する事が出来たら……。この試合はむしろ中谷ちゃん有利と私は見ているよ」
 と答えた。ただおだててただけじゃなく、勝算あっての言葉だったのか。
「それに、中谷ちゃんにはこの先の展開を考えたらなんとしても勝ってもらいたいと思うんだよね。未来のエース候補が二人ともデビューしたての新人に負けたとなったら、この先の前座戦線が更に白熱したものになると思うから」
 そう言う沙希さんは、やさしい師匠ではなく団体を盛り上げるマッチメーカーの顔になっていた。
「中谷ちゃんはいいとして、愛ちゃん」
「あ、はい」
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