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6R 前座戦線

 ある日のこと。
 その日は後楽園ホールでの試合だ。私が会場入りしようとした時。
「済みませ〜ん。そこの背の高い人〜」
 私の周りにはそんなに高い人はいない。振り向くと中谷さんと同じ位の、本当に小さい男の人がいた。
「わ・私ですか?」
「そうです。サインくれませんか?」
 サイン!? そういえば、いま私はNJWPのシャツを着ている。そうか、選手と勘違いしたんだな。
「あのう、私まだデビューしてないんで……」
「知ってますよ」
 え゛?
「ボク、新人とか練習生のサイン集めているんですよ。その中から未来のスターが生まれたら嬉しいじゃないッスか?」
 そう言うと紙袋から色紙を取り出して私に見せた。なんかドス黒いシミが付いている。
「ほら、これが新人の頃のブラディークイーン山吹沙希のサインと、初流血の血形ッス!」
 血形って……、額に色紙を押し付けたの……?(良識あるプロレスファンを目指すのなら、絶対こんな事してはいけません。会場からつまみ出されても知りませんよ)
 なんか知らない内に生まれて初めてファン(?)にサインする事になっていた。
「サインって初めて……。どうしよう……」
 渡された色紙とペンを手に持って私は動きが固まっていた。
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