もどる

5R 巡業

「ふぅん。ま、いいか。そのときはね、失神したらレフェリーストップだから、あきらめる」
「そうですか……。もう逃げられないんですね」
「ちょ、ちょっと、真に受けないでよ、冗談だから。えっとね、ギヴアップの意思表示は、口頭によるものと手で示すことの二種類あるの。口で参ったとかギヴアップとか言えるのならそれでいいけど、今は口が自由でも手を使う選手の方が若い人には多いね。マットか相手の体を軽くパンパンと叩けばそれをレフェリーはギヴアップとみなしてくれるよ。ちょっとやってみようか」
 中谷さんはそう言うと私に技をさせた(と言っても、説明を聞きながら形だけ真似しただけだけど)。
「こういう状態で私がギヴアップしたかったら、こうパンパン、とね」
 言いながら中谷さんは腕を締め上げている(形をしている)私の足を軽く叩いた。
「こういう風に軽く叩く事をタップと言うんだ。だからこういう形でギヴアップする事をタップアウトとも言うよ」
「この技ならここを叩く、というような決まりはあるんですか?」
「特に決まり事は無いけど……、でもそのときどこを叩くか、じゃ無くどこなら叩けるか、だから、大抵は同じような場所を叩く事が多いと思うよ。ちなみに柔道での参ったもほぼ同じやり方だよ」
「そうですか、ありがとうございます。これでプロレスのルールというものが解ったような気がします」
 と、お礼を言ってからある事に私は気づいた。プロレスも喧嘩じゃなくてスポーツなんだから、勝つためには何をしてもいいというわけは無い。禁止されてる事もあるんじゃないかな。
「あの、反則とかもあるんですよね?」
 私の言葉に中谷さんは笑いながら答えた。
前ページ
次ページ