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5R 巡業

 私が入門してから二週間が過ぎた。
 私は相変わらず練習でリングに上がる事は許されてはいないが、中谷さんのデビュー戦が決まったということで、連日中谷さんにつれられて道場で汗を流していた。とは言っても中谷さんと同等の練習が私に出来る筈も無く、いつも私は痛い目にあうことになってはいたけど。
 この頃私はようやくプロレスのルールをある程度把握する事ができた。
「そうねぇ、簡単に言うと、相手に押さえ込まれて両肩がついた状態でレフェリーが3カウントを数えたら負け(ピンフォール)、相手の技に耐えられなくなって『参った』したら負け(ギヴアップ)、ぶっ倒れてレフェリーが10カウントを数えたら負け(ノックアウト)、場外からレフェリーが20カウントを数える間にリングに戻れなかったら負け(リングアウト)、ダメージが大きくてレフェリーやリングドクターが試合続行不可能と判断したら負け(レフェリーまたはドクターストップ)、あとセコンドがこれ以上試合を続けたら危険だと判断したらタオルをリングに投げ入れる事で試合を中止する事もできるよ(テクニカルノックアウト)。もちろんそれも負けね。とりあえずこんな所覚えたらいいんじゃない?」
「その、参ったですけど、首を締められたりしたら参ったと言いたくても言えないんですよ。どうしたらいいんですか?」
 中谷さんが目を丸くした。
「私、愛ちゃんにスリーパーとかネックロックとかした覚えないんだけど?」
 いけない、松田さんと南さんに練習付き合ってもらった事は内緒だったんだ。
「あ、いえ、例えばの話、ですよ」
 私は慌てて誤魔化した。
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