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4R 道場

「あの……、済みません」
「なんだ?」
「なんで試合では悪いことをするんですか? 本当はいい人なのにお客さんとか誤解してますよ」
 松田さんは「いい人」という言葉に一瞬照れくさそうな顔をするが、すぐに呆れ顔になる。
「お前バカか? あたしらが悪いことをやめたら、おまんまの食い上げだよ」
「どういう事ですか?」
「アイドルとかにも色々なキャラクターがあるだろ、清純派とかセクシー派とかなんとかって。あたしらは それと同じで悪役というキャラクターを演じてるんだよ。大体あたしみたいな顔で正義の味方が出来る 訳ないだろ」
 思わず「そうですね」と言いそうになり私は口篭った。
「だからあたしらがお前の練習に付き合った事は誰にも言うなよ。後輩の練習に付き合う先輩なんて、 悪役のイメージが崩れるからな」
「解りました……」
 もとより私は勝手にリングに上がった事がバレたらいけないので誰にも言うつもりは無かったが、なぜ 悪役が存在するのかは解らないままだった。




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