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4R 道場

 と聞いてくるが「まいった」と言いたくてもその言葉が出ない(私はまだギヴアップのしかたを知らなかった)。
「南、放してやれ」
 松田さんが言ってくれたお陰で私は失神寸前で解放された。
「それでも、素質はありそうだよな」
 松田さんの言葉に南さんは
「ええ、鍛えればレスリングは強くなりそうです」
 と答えた。
 私は生まれて初めて受けたプロレス技に完全に気が動転していた。
「おい、新入り」
「は……はい……」
「強くなりたいか?」
「はい……!」
 松田さんはニッと笑った。その笑顔は試合での恐い姿からは想像できなかった。
「道場の練習だけじゃなく暇さえあれば体を動かすんだな。あと、お前は体の割に首が細いからブリッジは部屋にいるときでもやりな」
 松田さんの言葉に南さんが続ける。
「さっきのネック・ロック、落ちる前に首が折れそうで危なっかしかったよ」
 私は頷いた。
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