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4R 道場

 そう言うと中谷さんはバーンと大きな音を立てて受け身を取った。その音に私は思わず耳を塞いでしまった。
「なんでそんなに大きな音を立てるんですか?」
「音が大きい方が迫力あるでしょ」
 言いながら何度もバーン、バーンと受け身を取る中谷さん。
「いてっ!」
 いきなり大声を上げて中谷さんがうずくまった。
「ど・どうしたんですか?」
「準備運動するの忘れてたから腰が……。という訳でこれは悪い見本です、練習の前には入念にストレッチしましょう……」
「プッ!!」
 思わず吹き出してしまった。
「笑うな〜! マジで痛いんだから〜!」
「す・済みませんっっ!」
 謝る私だが、顔はまだ半分笑っていた。

 結局私は何もしないまま、中谷さんをおんぶして合宿所に帰った。腰が痛くなったのは予想外のアクシデントではあるけど、中谷さんが私を元気付けようとしていたことは充分すぎるほど解った。
「中谷さん、実はさっき泣いてたのは……」
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