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4R 道場

『やりたいこと見つけたとか言っていたけど、出来ているの? 一体何をしようと東京に出たの?』
「え? あ・あの、プロレス……なんだ……」
『そう。頑張りなさいよ』
「うん……って、え!?」
『実は社長さんって人から電話があってね』
「……知ってたんだ……」
『でもようやく愛の口から聞けたわ。頑張って……いつかはチャンピオンになるのよ』
「う……うん……」
 何故か涙が溢れてきた。
『泣いてるの? 練習が辛いの?』
「な……なんでもない……。大丈夫。頑張るから……」

 プロレスをしていることを白状したのは、隠し通せないと観念した訳では無い。また、今更止めても無駄だ、と、お母さんに対して勝ち誇った訳でも無い。肉体的にも精神的にも疲労がピークに達していたことで、「そんな危ないこと辞めなさい」という言葉を期待していた部分があったのだ。しかしお母さんは、あれ程上京を反対していたのに、今では私を信じて応援してくれていた。甘えていた自分が恥ずかしかった。そして、逃げ出そうとした自分自身が悔しかった。電話を切ってもしばらくは涙が止まらなかった。


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