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2R スカウト

「……と言う訳」
 沙希さんの話を聞いた私は、リング上であれ程いがみ合ってた彼女と相手のスラッシュ松田が事前に打ち合わせていた事が信じられなかったが、それ以上にスカウトという言葉が頭に引っ掛かっていた。
「そうですか。スカウトしたい人がいるから試合を変えたんですね。私の為に試合していた訳じゃ無かったんですね」
 私の言葉に沙希さんは慌てて
「ちょっと愛ちゃん、他にスカウトしたい人がいたら呑気に貴方と食事する訳無いでしょ」
 と言った。そして私の目をじっと見つめた。
「単刀直入に言うわ。愛ちゃん、プロレス、やってみない?」
「……え……?」
 私は頭の中が真っ白になった。一目見てプロレスのとりこになった私だが、リングに上がった自分自身の姿なんて全く想像できなかったからだ。
「急に驚かしちゃったみたいだね」
 苦笑いする沙希さんに、私は
「私が体が大きいからそういう事言うんですか?」
 と言ってしまう。学生時代身長だけでバレー部やバスケ部に誘われていたことを思い出したからだ。すると沙希さんは慌てて首を横に振った。


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