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2R スカウト

「前に巡業でこの街に来たとき美味しかった中華の店がこのへんにあった筈なんだけど……、どこだっけ」
「なんて店ですか?」
「ちょっと待ってね」
 言いながら沙希さんはポケットから店の名前の書かれたマッチを取り出して私に見せた。
「この店は全く反対方向ですよ」
「あれ? そうだったっけ? ゴメンね、無駄に歩かせて」
「いえ。あ、こっちです」
「さすが地元。最初から愛ちゃんに連れてって貰った方がよかったね。本当にゴメンね」
 沙希さんがしきりに謝るので私は恐縮してしまった。
「あ、ここですよ」
「あ〜、ここだここだ。変わってないねぇ」
 そこは一人で行くには(値段も敷居も)高い店だけど、結構美味しいので私も気に入っている中華料理屋だった。

「エビチリに麻婆豆腐に唐揚げに、明日はオフだから餃子も貰おうかな。あとレバニラに北京ダック、そうそう、春巻きを忘れちゃいけないね。汁物も欲しいからフカヒレスープも貰おうかしら。それから……」
 次々注文する沙希さんを見て私は目を丸くした。二人で食べるにしても多すぎるんじゃないの?
「……とまあ、私は以上で。愛ちゃん何食べる? 私のぶん位の値段なら大丈夫よ」
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