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2R スカウト

「そうですか。仕方ないな、今日は吉野屋だ」
 思わず私はその小柄な女性に
「あの、この市には吉野屋は一件だけで、車じゃないと行けない程ここからは遠いですよ」
 と言ってしまった。
「え〜? そうなの? ったくもう、なんて田舎なのよ! ……あ、ゴメンなさい」
「いえ、本当の事ですから」
 言いながら私はクスッと笑った。この控室に来て、初めて素で笑ったような気がする。
「それじゃ中谷ちゃん、私はもう上がるから。食事してその足で宿舎のホテルに行くからね」
 そう言うと沙希さんは私に「じゃ行こうか」と言いながら扉に向かった。私は慌てて小柄な女性に軽くお辞儀をして、沙希さんについて行った。

「あのぅ、山吹さん……」
「名前でいいよ」
「あ、はい、沙希さん、さっきの試合で凄い血が出ていたんですけど、大丈夫なんですか?」
「平気よ。血ィ有り余ってるから。ツバ付ければ直るって。それにレスラーってね、直るものはケガとは言わないのよ」
 とか言いながら外の街を歩く私と沙希さん。しばらく歩き続けるのだが、どうやら同じ所を回ってるだけのような気がする。
「あの、どこに行くんですか?」
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