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2R スカウト

「隠しててゴメンね。改めて、私はNJWPで一番の美女にしてエースの山吹沙希。よろしくね」
 彼女にしては冗談のつもりで言った自己紹介なのだが、緊張していた私は頷くのが精一杯だった。
「え……と、あなたは……」
 そこで沙希さんは口篭った。そうだ、まだ私は自己紹介して無かったんだ。
「山神……愛です……」
「愛ちゃんかぁ、それにしても苗字に私と同じ“山”が付くなんて奇遇ね」
「はぁ、そうですね」
 緊張の余り愛想笑いさえも出来ない。
「わぁ〜、でっかい〜。この人沙希さんの友達ですか?」
 不意に後ろから声がしたので振り返るが、誰もいない……と思ったら小柄な若手らしい人がいた。沙希さんを見ていた目線で振り向いたら誰もいなく感じる程小さい。恐らくレスラーとして、だけでなく一般人として見ても小さい部類に入るのではないか。
「友達……とはちょっと違うんだけどね」
 沙希さんが答える。
「ふぅ〜ん……。あ、そうそう沙希さん、今晩一緒に食事しましょうよ」
「中谷ちゃんの『一緒に食事しよう』は、奢ってくれっていう意味でしょ」
 中谷と言われた小柄な女性は、バレたか、という顔をして頭を掻いた。
「本当なら可愛い後輩に食事の一つ位ご馳走してもいいんだけど今日はダメ。この……山神愛さんとの先約があるから」
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