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1R 初観戦私は入場するヤマブキサキを見て、目を疑った。ベルトを腰に巻き、観客に揉みくちゃになりながら入場する彼女は紛れも無く、私にチケットをくれた女性その人だったからだ。私は思わず立ち上がり、口をパクパクさせながら彼女──山吹沙希──を指差してしまった。彼女はチラと私を見ると悪戯っぽく笑った。そして入場の先導をしていた若手っぽい人に何やら話すとリングに上がる。「なにつっ立ってんだよ、見えねーじゃねーか」 後ろの人に言われて私は慌てて「済みません」と座った。 「あの、沙希さんの言付けですけど」 不意に話し掛けられて向き直ると、先程山吹沙希に何やら耳打ちされた若手選手が目の前にいた。 「この試合が終わったら控室にでも遊びに来て下さいとの事です。私が案内しますから終わっても帰らないで席に座ってて下さい」 「は・はい、わかりました」 など話していると、周りの席の人たちがヒソヒソと 「あいつ、山吹の知り合いか?」 「あの体付き見ろよ。他の団体のレスラー仲間だぜ、きっと」 という話し声が聞こえたので恥ずかしくなった私であった。 試合が始まると、周りの私に対する視線も感じなくなったが、それは私が試合に集中してしまった事もあるけど、同じように周りの席の人たちも試合に見入っていたからだと思う。それほど凄い試合だった。 |
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