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1R 初観戦

 試合は相手方が押していたが、もう終わりだろうと思っても立ち上がり続ける山吹沙希の姿に心を打たれた。見ず知らずの私を招待したのもいい所を見せてファンになってもらうための行為だと私は推測した。だからこそ立ち上がり続けるのだろうと勝手に思い込んでいた。早い話、彼女は私の為に戦っていると決め付けてしまっていた。もっとも彼女は元々そういう受け身のファイトスタイルだったらしいが、そんな事はこの時は知るはずもなかった。
 山吹沙希が何をしても起きてくることに業を煮やしたのか、相手の選手が彼女を場外に落とし、鉄柱に額を打ち付けた。私は思わず「キャッ!」と目を伏せてしまう。恐る恐る目を開けると、目の前フェンスごしに、額から血を滴らせた山吹沙希が立っていた。私はまた悲鳴を上げてしまう(実は彼女はブラディークイーンとあだ名されていて流血が多いことを後で知った)。プロレスは野蛮な喧嘩では無いと思い始めていただけに凄いショックだった。
 しかしここから彼女は見せてくれた。頭を抱えられて締め上げられていたところを逆に相手の巨体を後方に投げ付けたのだ(ヘッドロックをバックドロップで切り返した、らしい)。間髪入れず、相手が起き上がったところに走り込んで跳び後ろ回し蹴りみたいな技(フライングニールキック)を繰り出し、最後は後ろから抱え込んで後方に体を反らせるように投げ、その体勢のまま「ワンツースリー」と勝利を奪って見せたのだ(ジャーマンスープレックスホールド)。押され続けての逆転勝利に、私は勿論他の観客も大歓声。思わず大声で
「キャー! 勝った勝ったー!」
 と叫んでしまった。相手に悪いことをされても同じ事をやり返さず、あくまで技で勝負した姿に感動さえ覚えた。
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