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1R 初観戦

 そうこうしている内にリングにアナウンサーみたいな人が上がって、簡単な挨拶、そして本日の対戦カード等の説明を始めた。第何試合、誰誰対誰誰、とアナウンサーが言うたびに会場からはパラパラと拍手が起きるので私も意味も解らずに周りと一緒に手を叩いた。

「──そして本日のメイン・イベント、急遽決定しました、NJWP認定無差別級選手権試合、山吹沙希対スラッシュ松田!」
 会場が大きなどよめきに包まれた。
「確かにこの二人の因縁は最近激しくなってて、山吹もどこでもベルト賭けてやってやるとか言ってたけど、まさかノーテレビでタイトルマッチかよ!?」
「テレビだけじゃないぞ。マスコミも今日の大会はノーマークなのか、記者の一人もいないじゃないか!」
 ふ〜ん。そんなに凄いのか。ところでタイトルマッチってなんだろう? 弟の言ってたヤマブキサキって一番最後の試合なのか。……なんて取り留めの無いことを考えているうちに第一試合が始まった。
「このやろー!」とか「チクショー!」といった、いわゆる普通の女の子が口にしたら下品になるような言葉を発しながら両選手が感情をむき出しにしてやりあっている。町の喧嘩とは明らかに違っていた。相手が憎くてやっているのではなく、ただ純粋に「勝ちたい」「負けたくない」という部分が感じられた。思わず見ていて興奮してしまった。



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