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1R 初観戦午後四時前。私は産業体育館前の道路のガードレールにもたれてチケットを眺めながら貧乏揺すりしていた。開場時間の三時前からずっといるのに彼女が来ないからだ。彼女は選手だからとっくに会場入りしてるのだから当たり前かも知れないが、私は「一方的に誘っておいてすっぽかすなんて…」と苛立っていたのだ。開場三時、試合開始四時、とチケットに書いてある。もうこれ以上待ってられない。帰っちゃおうかとも一瞬思ったが、大のプロレスファンの弟にヤマブキサキのTシャツを売店で買ってくれと頼まれた事と、せっかく貰ったのだから見なきゃ損と思った事で入口へと足を運んだ。弟の好きなヤマブキサキが例の彼女であることなど私はまだ知らなかったが、取りあえず頼まれた物でも買うか、と思いながらチケットをもぎりの人に出した。館内に入り売店を探すが、勝手が解らず迷っている内に係員の人に「間もなく試合開始です」と促され、席に案内される。 「あの、売店はどこですか?」 係員に聞くと 「試合が始まると閉まってしまいますから。休憩と全試合終了後には開きますからその時にどうぞ」 と言われたので、その場は席につくことにした。 案内された席に着いて驚いた。チケットに一列目と記載されているので予想はしていたが、本当にリングのまん前なのだ。席とリングの間には安全性のためか柵があるにはあったが、それでもいわゆるがぶりつきだった。この目の前で間もなく喧嘩(この時点で私はまだプロレスを誤解していた)が始まるんだと思うと少し緊張した。 |
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