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2:裁きの草

「アマゾンの奥地に原生している草だ」
「マリファナじゃないのか?」
 カルロスは草を一掴みすると、圭介の顔の前に差し出した。
「マリファナには独特の匂いがある。そう、一度嗅いだら忘れられないような、な。だが、これは……。嗅いでみろ」
 圭介はその差し出された草に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。思わず「うっ」と顔をしかめて鼻を押さえる。
「マリファナじゃない……」
「そう、これはマリファナじゃない。とある部族の間で、罪人の処罰に使う草……“裁きの草”だ」
 カルロスは言いながら、器用に紙でその草を巻いた。
「俺はその部族にいた。そこで俺は罪を犯した。そして処罰から逃れるために部族から抜け出した。まさかアメリカまで来たら追っ手も来ないと思っていたのだがな」
「それを吸うとどうなるんだ?」
「草が罪人に寛大だと至高の快楽が与えられる。しかし、そうでなければ時の輪の中に封じ込まれて、一生目覚めぬ夢を見続ける」
 カルロスは笑みを浮かべたまま、同じ物をもう一つ作ると圭介の前に置いた。
「罪人がこの草を吸うとき、もう一人も一緒に吸う。案内人と言ってな。罪人に草がどのような裁きをするのか見届けるのが役目だ」
 カルロスはそこまで言うと紙に巻かれた草を口にくわえて火を付けた。
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