もどる

1:タイムストップ

 次の日、銀行の前に立っていたはずの男が服を残して消滅したという事件が報道された。
 彼はニュース番組を見ながら、今度は何が原因だろうと頭を抱える。
 そして出た結論。
「猛スピードで動く物体に対して働く空気抵抗は大きい。時間が止まっているという事は、無限大の空気抵抗を受けているのと同じだ。無限大の抵抗を持った空気は、いわば固体だ。奴は呼吸する事も出来なくなる。そして空気の壁に全く身動きできないまま窒息して死んでしまった。そして、奴の時間感覚で言えば無限の時間が過ぎただろう。死体は骨まで風化してしまって当然だ……」

 数年後、彼は、例の防護服に、どのような空気抵抗を受けようと一定の運動量を保てる機能と、どんな状況下でもそれを着た人間は呼吸することが出来る機能を追加する事に成功した。理論上では凍死する事も、身動きできなくなる事もなくなる訳だ。彼は防護服を身に纏い、またまた完成させた時間を止めるマシンを手に取った。
「博士、とうとう実用化までこぎつける事が出来ました。時間を止める理論そのものは博士が完璧な形で完成させてましたが、実用化までに長い年月がかかってしまいました。でも、博士の残した遺産があってこそ私もこの防護服を開発する事が出来たのです……」
 彼は満足げな顔を浮かべつつ、マシンのスイッチを押した。



前ページ
次ページ