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1:タイムストップ

 数年後──。
「なぜ博士はスイッチを入れた瞬間、その体勢のまま即死してしまったんだろう……」
 研究所に残された助手は、博士の死因を調査する日々を送っていた。
「司法解剖の結果によると、体のあらゆる組織が壊死していた。マシンが故障して時間軸に戻れなくなって年老いて死んでしまったとは考えられない。実際、スイッチを入れる前と全く同じ状態で故障は確認できなかった……」
 しかし、いくら考えても答えは出てこなかった。
 気晴らしにビデオでも見ようと適当な映画のビデオカセットをデッキにセットし、再生を押す。
「……待てよ……」
 彼はリモコンを操作してスロー再生にする。
「ビデオがスローという事は、逆に言うと、つまりビデオを基準にすると、私は高速で動いている、という事になる……」
 そして一時停止を押す。
「ビデオは止まっているが、これは私がビデオのスピードに対して追いついたという事になる……」
 だんだん考えがまとまってきた。
「つまり……、そうか、そういう事か! 時間を止めるというのは簡単なアインシュタインの相対性理論の応用なんだ!」


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