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最終章・後編

 数分後、星来の母親が、お盆に湯飲みとお茶の入った急須を乗せて部屋に戻ってくる。そして
「私は今ではミノルさんのことはなんとも思ってませんが、うちの人はさすがにちょっと……ね。頭では解ってるんでしょうけど。私がミノルさんを訪ねると言ったら、それは駄目だ、絶対許さんと言うので、うちの人が仕事でいない日にしたんです。だからあまりおもてなし出来なくてごめんなさいね」
 と言いながらミノルにお茶を出した。
「いえ……。憎まれて当然ですから……」
 ミノルはそう言うと、湯飲みを取って小さく「いただきます」と言って、星来の母親に頭を下げる。
 お茶を飲み終わった後、しばらく沈黙が漂った。
 その時、不意に星来の母親が思い出したように
「そうだ、これから街に食事にでも行きましょう!」
 と明るく言った。
「え?」
 ミノルが聞くと、星来の母親はにっこりと笑って片目を閉じる。
「私の夢をかなえさせてちょうだいな。星来と星来の旦那さんと三人で食事をするのが私の夢だったんですよ」
「でも、星来……さんは……」
 星来の母親は、自分の胸に手をあてて
「あの子は、ミノルさんのここにいますよ」
 と微笑んだ。
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