もどる

最終章・後編

「──今は、憎んでなんていませんよ。なんといっても、あの子が信じた人ですからね。あの子の人を見る目は確かだと、私は母親として自信を持って言えます」


 その日、ミノルは仕事を休んで(以前星来が職場に怒鳴り込んで以来、ミノルが休むと言えば無条件で認めてくれるようになっていた)、星来の母親と一緒に星来の実家に行った。
 途中、星来が眠る墓に寄ったが、ミノルは手を合わせながらも未だに信じられないでいた。が、実家に着いて仏壇に飾られた星来の遺影を見た時に、初めて星来の死を実感する。遺影に使われた写真は、憂いのある、どことなく悲しそうな笑顔だった。
 ミノルが星来の遺影を見つめ続けているのを見て、星来の母親は「ちょっと失礼」と、部屋を出た。星来とミノルを“二人きり”にさせてあげようと気を使ったのだ。
 ミノルは自分自身を冷めた人間だと思っていた。よくドラマなどで、動物、植物、死んだ人の写真などに語りかけるシーンを見るたびに、こういうのは心の中で思ってればいいのに、わざわざ喋るのは、ドラマを見てる視聴者に解りやすくするための演出だ、と思っていた。
 しかし──。




前ページ
次ページ