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最終章・後編

 しかし、星来の母親の顔を見ると、ミノルはそれが真実である事を悟った。
「……本当……なんですね……?」
 星来の母親は沈痛の面持ちで頷いた。
「……俺が……星来を……殺したんだ……。あの時……産めとは言わなかったら……。たとえ……星来に愛想つかされて別れることになったとしても……堕ろせと言えば……良かったんだ……」
 うわ言のようにミノルは呟くが、星来の母親は毅然とした口調で
「ミノルさん、それは違います」
 と言った。
「……でも……」
 星来の母親はミノルの顔を優しく見た。
「母親になるっていうのは不思議なものでしてね。私は星来に産むのを反対しながら、その反面、星来の気持ちも痛いほどよく解るんです。多分、私が星来の立場だとしても、あの子と同じ選択をしたでしょうね。母親になるというのはそういうものなんですよ。あの子は、大きなお腹を見せ付けるようにしてすごく誇らしげに、母親の顔になって帰ってきましたから。うちの人は相手は誰だとすごい剣幕だったけど、星来は、やましい事なんて何一つしていない、この赤ちゃんのお父さんは絶対逃げも隠れもしない、今度連れてくるから楽しみにしておけって、堂々とうちの人と渡り合ったんですよ」
「でも、おかあさんにしてみれば、大事な娘を死に追いやった、僕のことを憎んでいるでしょう?」
「ええ、殺してやりたいくらい憎く思っていましたよ、最初は。でも、今は──」
 ここで星来の母親はいったん言葉を止めて、ミノルに向かって微笑む。
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