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最終章・前編

 そして日曜日。星来はいつもより早起きをして弁当を作り、それからミノルを起こした。
「今日、早番だろ? 弁当を作っておいたぞ」
 星来が弁当を作ってくれるなんて珍しい事もあるものだ。もっとも以前作ってくれたお粥から、味の方は期待は出来ないな、とミノルは思ったが
「ああ、サンキュー」
 と答える。
「で、お前は今日実家に行くんだよな?」
「ああ。しっかり親を説得して、次のミノルの休みの日には二人とも家にいるように言うから」
 星来の言葉を聞いて、ミノルはじっと星来の目を見つめた。
「な・なんだよ?」
「……いつも俺の事、アンタって言うのに、名前で言うなんて珍しいな……」
 ミノルの言葉に星来は少し照れたような素振りを見せた。
「そ・そんなことどうでもいいだろ!? じゃあ私はそろそろ行くからな!」
 照れ隠しに大声を上げて星来は立ち上がった。
「じゃあ、行ってくるから。吉報を待ってろよ」
「ああ、頼む」
 星来は満面の笑みを浮かべて手を振った。

 その日、星来は戻って来なかった。
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