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最終章・後編

 実家に行くと言って家を出た星来はその日帰ってこなかったが、ミノルは親子水入らずを満喫しているのだろうと、それほど気にはしなかった。しかし、次の日も、その次の日も星来は帰ってこなかった。そして、ミノルの仕事の休みの日になっても星来からの連絡は無かった。
 星来は自分のことをあまり話さなかったので、実家がどこにあるのか、都内にあるのか他の県なのかさえも知らなかった。ミノルが休みの日に一緒に実家に行こうと星来が言っていた口ぶりから推測するに、日帰りで帰れる距離だろうという事は解るが、それ以外は全く解らない。

 ミノルは星来の居所を探して歩いた。星来が通っていた産婦人科を訪ねたり市役所に行って星来の移転届の写しを取り寄せたりもしたが、順調にいけばそろそろ子供が産まれているだろう時期になっても星来の行方は解らなかった。


 そんなある日、ミノルの家に一人の女性が訪ねてきた。年のころ四十代半ばといった感じだ。顔を見た瞬間、どことなく星来に似てるとミノルは思った。
「初めまして。星来の母です」
 ミノルは「やっぱり」と思った。星来の母親は
「あの子……、星来のことですけど……」
 と言いかけて言葉が途切れた。
「あ、あの、おかあさん? 星来……“さん”がどうしたんですか?」
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