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最終章・前編

 ミノルは、言うなら言うで、それなりのシチュエーションを頭で思い浮かべていたのだ。
 しかし、星来は
「……なあ、今ケッコンしなきゃだめか?」
 と聞く。
「へ? しないのかよ?」
「紙一枚で決まるっていうのもなんだと思うんだよね。どうせ一緒に住んでいるというこの関係は変わらないわけだし。それに……」
「それに?」
「一度、未婚の母っていうのをやってみたかったんだよね」
 星来の思いもよらない言葉に、ミノルは呆然とした。星来は笑いながら自分のお腹を触り
「心配しなくても、この子が物心つくまでにはアンタとケッコンするからさ。さすがに私も、両親の名字が違うって子供に思われたくないからね」
 と言う。そして
「アンタも、内縁の妻と子供を持つって事を、若いうちに経験できるんだぞ?」
 と続けた。
「……別に、経験しなくてもいいことだと思うんだけど……」
「まあ、これはあくまで私の考えだから気にするなよ。どうしても今がいいっていうのなら、それこそ早いがいいから明日にでも市役所に行こうぜ」

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