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第十章

「……二人とも、ボケとツッコミの立場が逆転したんじゃないの?」
 直子の言葉に
「俺は元からツッコミだぞ。女に対して男はツッコムもんじゃないの?」
 と腰を振りながら下ネタ全開で答える崇広。即座にその場にいた全員の突っ込み(ドツキあり)を受けてしまう。ミノルに空手を禁止された星来までも思わず裏拳をかましていた。
「キスかぁ、いいんじゃないの? せっかくだから二人の熱いくちづけ見てみたいな」
 直子が言う。このとき直子の顔は、先ほどまでの優しい笑顔から、いつもの悪戯っぽい笑みに豹変していた。崇広は倒れているが、当然誰も助けたりはしない。
「……え? ……うっぷっ!」
 ミノルは先日の胃液の味のキスを思い出して思わず口を押さえる。
「キスしようとして吐くなんて、なんて失礼な男だ!? 星来ちゃん、ミノルのこと殴ってやって!」
 直子が大声を上げるが、理由を知ってる星来はクスクスと笑っていた。
「なんで笑ってられるの!?」
 直子はさらに大声になるが、星来は笑みをたたえたままだ。その嬉しそうな笑顔を見ると、何も言えなくなる直子だった。




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