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第十章

 部屋に戻った星来が
「……もう遅いよ。次からはテレビと新聞以外にもこういう事態の対処の仕方を前もって言っといて」
 と言う。その後ろから顔を出したのは言うまでもない直子だ。
「いつからそんなに冷たくなったのよ〜。ミノルのこと嫌いになっちゃうぞ〜」
 直子が言うと
「ありがとうございます」
 と答えるミノル。
 ミノルと直子は性別を超えた“親友”のため、いくら“彼女”である星来でも踏み込めない世界が一部ある。星来は「勝手にやっといて」と言わんばかりに床に落ちている雑誌を手に取って読み始めた。
 ミノルは直子がなにかを大事そうに抱えている事に気付いた。
「それは……?」
「セリナちゃん!」
 直子が言いながら見せる。赤ん坊だった。
「せりな……?」
「星に利益の利に奈良の奈って書くんだよ」
 と言いながらテーブルがわりの炬燵の上に「星利奈」と指で書いた。
「星来ちゃんから一字貰っちゃった。事後承諾でゴメンね」
 と星来に声をかける直子。

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