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第九章

「殴って悪かったね。でも、加減はしたから。気は失うけどね」
 と言いながら、お盆に粥を乗せて持ってくる星来。
「結局仕事行けなかったじゃないかよ」
「それなら心配ないよ」
 星来はミノルが気絶している間の事を話して聞かせた。テーブルのガラスを割った事だけは伏せてはいたが。
「そんな事やったのかよ。クビにならなくても気まずくて行きにくいじゃないかよ」
 ミノルはため息をついた。
「そうなったら養ってやるよ」
 平然と星来が言うので、ミノルは目を丸くした。
「……そういうのって、普通は立場が逆じゃないのか?」
「そうか? 主夫ってのも悪くないぞ」
 星来の言葉にミノルは苦笑しながら粥を食べようとした。
「熱いから気を付けろよ」
「了解」
 梅干入りのその粥は、磨ぎ方が不十分な上、米の芯も多少残っていたが、ミノルは「星来らしいな」と思いながら、文句一つ言わずに平らげた。


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