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第九章

 星来は拳に構うこと無く
「とにかく! 今日はアイツは休み! 解ったね!?」
 と言いながら財布からいくらかお金を取り出して
「これ、ガラス代! 割ってしまって悪かったね! それじゃ!」
 とテーブルに叩きつけるように置くと、きびすを返した。
 店から出ようとしたところで振り向き
「風邪くらいで休んだからってクビになんかするなよ。そうなったら不当解雇だって訴えるからね」
 と釘を刺す。フロントは呆然としたままカクカクと頷いた。


「……ったたた……。いきなり殴りやがって……。こっちは病人なんだぞ……」
 ミノルが目を覚ますとキッチンの方から
「あ、起きたか? ちょうどお粥が出来たところだぞ」
 と星来の声。
 ミノルの熱はかなり引いていた。頭の下に氷枕があったが、おそらくこれが効いたのだろう。ミノルは氷枕なんて持ってなかったから、星来が持ってきたのかとミノルは思った。その氷枕は新品のように綺麗で、まだ真新しいゴムの匂いが残っている。後で知ったことだが、それは星来が今日買ってきたものだった。

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