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第八章

「相変わらず好きだね〜」
 背後からミノルに話し掛ける声。
「おう、俺がプロレス好きなのは今に始まった事じゃないからな」
 と答えてから、ミノルはハッと振り向いた。直子だ。
「おい! 直子! いつの間に上がってるんだよ!?」
「鍵がかかってなかったから」
 直子は平然と答える。ミノルはビデオを一時停止して
「んで? 今日はなんだ?」
 とため息混じりに聞いた。
「家出してきた」
 直子のこの答えに、ミノルは深く深くため息をついた。
「またかよ。本当に、いい加減落ち着けよ」
「い〜や、許せん。もう別れる。離婚する」
「それ、この前も言った」
「まぁ、手ぶらで来るのもなんだから、今日はお土産があるよ」
 直子がそう言うと、その後ろから眠そうな顔をした星来があくびしながら
「よう」
 とミノルに声をかける。

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