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第八章

 星来は疲れているのでそろそろ寝たいのだが、直子がいるとそれも出来ない。あくびの回数も増えてきた。
「星来ちゃん、眠そうね。顔も少しやつれてるし。ひょっとして今日来たのはまずかった?」
 さすがの直子も星来の様子を見て声をかける。
「うん。かなり」
「わ、はっきり言い切られた。でも、家には帰りたくないしなぁ……」
「じゃあ、アイツの家に行けば? 一人で行きづらいのなら私も一緒に行ってあげるよ」
 星来は、もう眠れるのならどこでもいいやと思った。


 ミノルは、先日仕事のために見損なったテレビ番組をビデオで見ていた。プロレス中継だ。
 ひいきの選手の試合で、ミノルは大声を上げている。
「てめぇ、何やってる! 卑怯者!」
 相手の選手が、ひいきの選手がロープに逃げているのに攻撃を止めようとしないので憤慨の声を上げるミノル(プロレスではロープに触れてる相手に攻撃するのは反則となる)。
 しばらくして攻守が入れ替わり、今度は相手の選手がロープに逃げた。
「まだ放さなくていいぞ! 反則はファイブカウントまでなら何でもありだ!」
 同じような状況なのに、ひいきの選手だと甘いのがミノルである。もしこんな人間がレフェリーにでもなったら試合は滅茶苦茶になってしまうだろう。
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