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第八章

「いや、なんでもない」
 直子はサラッと流した。別に口が滑りかけたわけではない。わざとだ。ミノルから星来に対する思いは口止めされている。が、それっぽい事を匂わせても、直接的にさえ言わなければいいと勝手に解釈しているのだ。

『でも、この二人、結構頑固だから、ゲームが継続している限りはこれ以上進展するのは難しいな……』

「なに直子さん、呆けてんの?」
 星来の声に、直子の思考は中断された。
「あ、いや……。ま、とにかく家に上げてよ。お茶でも御馳走して」
「……直子さんが強引なのはアイツに対してだけだと思ってたけど、違ってたか……」
 ボソッと呟く星来。すかさず
「なんか言った?」
 と直子が聞く。
「それはきっと空耳」
 星来は言い切った。



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