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第六章

 新宿歌舞伎町「ニュー・エメラルド」。星来の職場だ。
 店のコスチュームに着替えて通称キャバサン(風俗嬢御用達のサンダル。意味は恐らくキャバクラサンダルという意味だろう。キャバクラに限らず他の風俗でも普通に履かれている)と呼ばれるヒール付きのサンダルを履き終わったところで
「わぁ〜、背ェ高い人がヒール付きの靴とかサンダル履いたらカッコええなぁ」
 と声をかけられ、振り向く星来。先日入店した新人だ。
「あ、おはよう」
 星来は“カッコええ”の言葉に少し照れくさそうに笑いながら、その新人に挨拶を返す。
「せっかく似合うのに、通勤にはスニーカーなんやぁ。もったいないなぁ。まあ、スニーカーも似合うけどなぁ」
「ハイヒールは持ってるんだけどね、彼氏とのデートの時しか履かないって決めてるのよ」
「うわっ! いきなりのろけられたわ。ご馳走様」
「いや、そうじゃなくて、ハイヒール履いたら、彼氏よりも背が高くなるから、優越感を感じるため」
「あ? そう? 私はヒール履いても全然彼氏の背には届かへんからよう解らんわ」
 などと話しながら、控室に向かう二人。星来は彼女とはわりと気が合うのか話も弾んでいた。気が合うのは性格的な部分もあるが、他にも意外な共通点があるためだ。



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