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第五章ミノルは以前、ゲーム会社で製作スタッフとして働いていた。しかし、今現在ならともかく当時の業界は人手不足で、そのぶん一人一人にかかる負担が大きすぎた。ゲームをクリアするとエンディングにずらずらっとスタッフの名前が出たりするが、一人が複数のペンネームを使い分けることで「大勢のスタッフ」という演出をしていた、というソフトも少なくなかった。冗談ではなく本当に死人が出るような職場で、ミノルも何回か過労死した同僚の葬式に出席した事がある。ミノルはBGM作曲を担当していたのだが、ある日、一週間で60曲作れと言われた時には本気で「今度はオレの番か」と思ったものだ。なんとかその仕事は乗り切ることが出来たのだが、その仕事が終わったところでその会社に辞表を提出したのだ。ミノルはその会社を辞めた時点で、二度とゲーム製作には関わるつもりは無かった。人を人と思わぬような仕事はもうごめんだった。しかし、ゲームを取ったら何一つ自分の技能を生かせる仕事が無かった。仕方なくバイトを転々としたのだが、東京で一人暮らしをするにはかなり無理があった。そこでいわゆる風俗系の仕事を選んだのもある意味自然の成り行きだった。テレクラの仕事を始めたときも最初は生活のためだったのだが、今ではそれなりに誇りをもって仕事に取り組んでいる自信がミノルにはあった。「遊ぶ金目的じゃないのは確かだよ。でも、誇りって……。まあ、プロフェッショナルな仕事だという自信はあるけど……」 「だったらそれでいいだろ。仮に本当の彼女がこういう仕事をしていて、その事を知っても、辞めさせるつもりはオレには無いよ。遊ぶ金目的だったら話は別だけどな」 「じゃあ、その、何でこんな仕事をしてるのか聞かないのかな」 |
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