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第三章

 そして、その日。仕事が終わって帰宅したミノルは「またか」と思った。星来が例によって体操座りをして部屋のドアの前にいたのだ。星来が前触れも無くミノルの部屋に来たときは“体操座り”と決まっていた。最初は驚いたものだが、今では「またか」で済ませている。慣れとは恐ろしいものだとミノルは思った。
「今日は風邪をひいてないだろうな」
 ぶっきらぼうに星来に声をかける。
「アンタの職場の方に電話して仕事が終わるのが何時か聞いたからね」
 ミノルに対して目も合わさずに答える星来。
「どうでもいいけど、そこどけよ。部屋に入れないだろ」
「せっかく来てやったのにその言い草は何?」
「誰も来いとは言ってないだろ。何しに来たんだ?」
「……コーヒー飲ませろ」
 ミノルは渋々星来を部屋に上げた。






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