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第二章

 朝っぱらから大声を出してミノルを頭ごなしに叱り付けたのは、彼の昔の彼女の直子だった。手に往復葉書――結婚式の招待状――を持っている。
「え? 式……?」
 ミノルは眠い頭で記憶を辿った。そういえば直子が結婚するって招待状を送ってきたな……。で、俺は確か……欠席に丸をつけて返信したんだっけ……。
「昔の彼女の結婚式にお祝いにも来てくれないなんて、この白状者ー!」
「どうでもいいけど、まだ朝早いんだぞ。もう少し声を小さくしろよ」
 ミノルに言われて、直子はようやく声のトーンを下げた。
「……なんで欠席なのよ」
「いくらなんでも新婦友人として元彼氏が参列するわけにはいかないだろ」
「確かにミノルはあたしの元彼氏だけど……。でも、今は性別を越えた親友だと思ってたのに。友達の中ではミノルに一番に祝って欲しかったのに……」
 ミノルと直子の昔の関係は、言ってみれば子供の関係だった。お互いにこれは恋愛ではないと悟った時に恋人としての関係を清算したのだ。しかし、それ以後も“友達”としての付き合いは続いていた。今では互いの恋愛についての相談もする仲だ。異性の相談をするのに異性の友人がいるのは心強い。ミノルも自分の彼女に何をプレゼントしたらいいか直子に相談した事がある。
 しかし、ミノルと直子は男と女だ。新婦友人側の席にミノルが座ると、他の参列者に何を思われるかと考えたら欠席にせざるを得ない。

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