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第一章

 部屋の前に誰かいた。
 星来だった。
「お・俺の家知ってたのか?」
 驚くミノルに彼女はニヤリと笑って
「このアパートの前で一瞬アンタの足が止まったのが見えたのよ。もしやと思って表札見たら大当たりって訳」
 グループの仲間である手前、自宅まで来られて追い返すわけにはいかない。
「ま・まあ、上がれや」

「とにかく、今日は大人気なかった。悪かった」
 ミノルの言葉に、星来は出されたコーヒーに目もくれず不敵な笑みを浮かべたまま答えた。
「アンタ、私の事嫌いなんだろ? 謝る事無いよ。私もアンタの事嫌いだから」
 ミノルは唾をごくりと飲み込んだ。やっぱり喧嘩の続きか? 女とはいえ空手の有段者相手に無傷で済む自信は無い。
「でも今日は楽しかった。生まれて初めて人のことを嫌いではなくて憎たらしく思ってコンチクショウって思ったからね。まさに初体験、ってとこかな」
 ミノルは、こいつ何を言い出すんだ、と思った。
「私に対してあからさまに嫌悪感を持った人間に出会ったのも初めてだよ。だから私と付き合いなさい」
 ミノルは思わず飲みかけたコーヒーを吹き出した。
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