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第四話「テストはお任せ」

「あの、先生? こんな成績取らせてくれて、こんなコト言うのちょっと悪いんだけど……」
 次の日、先生が来たところで、あたしは切り出した。先生は黙って聞いている。
「……そういう訳だから、あたしの元の学力より、少し良いってくらいにして、それ以外の余分なもの、あたしの頭から削除して欲しいの」
 先生はあたしの話が終わるとゆっくり何度も頷いた。
『そういう事ならそうしようか。その代わり次からは、宿題を見もしないで最初から投げ出す、なんて事したら、もう知らないからね』
「そ・それはもちろん! ……でも、やってみてもダメだったら勘弁してね……?」
『それにしても、せっかくの記憶を削除するなんてもったいないなぁ』
 ……聞いてる? 勘弁してって言ったんだけど?
『今の君の学力なら、東大の経済学部だって首席で卒業できて、おまけに日本の抱えるありとあらゆる社会問題だって全て解決できるだけのものがあるんだけど。景気だってじゅうぶん回復できるくらいのね』
 は? そこまで今のあたしってば頭いいの? あたしはあくまで大学ではなく専門学校志望なんだけど、それはちょっと惜しい気もするな……。
「で・でも! あたしがそんなに学力あったら、家庭教師を雇う理由が無くなってしまうじゃない! 先生だって収入が無くなると困るでしょ!」
 そう、先生の経済状態を心配しての事。先生がウチに来なくなってしまったら寂しくなるから、とかそういう理由は決して無い。うん。その割にはちょっと声が大きくなったような気もするけど。
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